「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が発生する」、経済産業省が2018年9月に公表した「DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」で指摘した「2025年の崖」問題は、大きな注目を集めた。その解決策として、業務の根幹を担う既存のレガシーシステムの刷新が強く叫ばれている。
しかし、複雑化・ブラックボックス化が進んだことで保守運用が属人的となりやすく、費用もかさむためにDX実現の足かせになっているのが現状だ。
そうしたシステム刷新で欠かせないのが、人とシステム(=データ)の接点となる「UI/UX」の改善だ。今や社内の業務システムは、高度な機能を実装していてもUIの質が低ければ“使われないシステム”となってしまう。また、優れた操作性がなければ、業務効率や生産性に影響を与える恐れもある。さらにスマートデバイスの利用機会が増えている中、今後はIoT機器への対応が必須となってくる。
こうした多様なデバイスにおける操作環境を構築するためには、これまで各環境に応じた開発や保守・運用が一般的だった。しかし、開発コストや人的リソースなどでの負荷が高く、スピードが求められるビジネスに悪影響を与える可能性も高い。
そうした課題をどう解決すればいいのだろうか。レガシーシステムを再生するための最良の方法を探ってみよう。
名著から読み取る、「UI/UX」開発における課題
システムの操作性や生産性などを大きく左右するUI。「システム開発において、UI部分を司る画面設計は、大きな比重を占めています」と日本ネクサウェブ 営業本部 本部長の川西 誠氏は語る。同氏は、情報システムやWebサイトのUIデザイン設計方法を体系的に解説した『ユーザビリティエンジニアリング原論』(ヤコブ・ニールセン著)の内容を踏まえて、UI/UX開発における現状を指摘する。

日本ネクサウェブ 営業本部 本部長 川西 誠氏
「プログラムコードの48%はUIに関係する記述が占めていると言われています。また、システムの規模が大きくなるほど、画面やダイアログボックス、メニューなどの要素が多くなります。大型ソフトウェアプロジェクトではユーザーによる度重なる変更要求、操作の見直し、必要な操作に対するユーザーの理解不足、設計・開発者とのコミュニケーション不足などが原因となり、開発コストの予算をオーバーしてしまうことが起きています」(川西氏)
昨今の業務システムのUI/UX開発のトレンドとして、同社の営業本部 マーケティングチーム チーム長の田 敏吾氏は「業務システムのユーザーはより高度な操作性を求める傾向にあります」と説明する。

日本ネクサウェブ 営業本部 マーケティングチーム チーム長 田 敏吾氏
また、スマートフォンやタブレットなどシステムを利用するデバイスが多岐にわたり、その全てを網羅しなければいけないマルチデバイス対応が求められているという。「業務システムはマルチプラットフォーム、マルチデバイス対応が当たり前の時代となり、その点で多くのシステム開発者が苦労されていると思います」と指摘する。
そうした現状を解決する方法として日本ネクサウェブが提供しているのが、「nexacro beyond(ネクサクロビヨンド)」だ。
マルチプラットフォーム/マルチデバイス対応が可能な開発・実行基盤
nexacro beyondは、Webシステムのプレゼンテーションレイヤー(端末画面側)の開発を支援するプラットフォームだ。すべてのクライアント環境に対応する「Web(HTML5)」「ネイティブ」の2つのアプリケーション開発を迅速に実施できる。
nexacro beyondは、開発環境である「nexacro studio」とその実行環境である「nexacro platform」の2要素で構成される製品。その大きな特徴として、川西氏は「One Source Multi Use(OSMU)」「Unified Framework」の2つを挙げる。
OSMUとは、「1つの開発ツール、1つのプログラムコードが全ての実行環境で利用できることを指す。nexacro studioでは、GUIにより、「WYSIWYG」での画面デザインが可能。イベント処理などの動的なUIのコントロールについては、JavaScriptでロジックを記述する。

【図1】nexacro beyondの製品コンセプト(OSMU:One Source Multi Use)
また、10年以上継続するUI製品の開発で得られたノウハウが集約されているUIコンポーネントを活用した画面開発が可能。業務システムの画面で必要とされる40種以上が基本コンポーネントとして提供されている。さらにコードアシスト機能やドキュメント生成ツール「nexacro doc」も備えており、ユーザーがプロトタイプの操作性を確認しながら進められる“アジャイル開発”も可能だ。
nexacro studioで開発されたアプリケーションは、「Unified Framework」によって動作する。HTML5とRUNTIMEを統合する同フレームワークでは、環境ごとの挙動差を吸収する分岐ロジックが組み込まれているため、「開発者は利用環境を意識した開発を行う必要がありません。実行環境が変更された場合でも、新たな挙動差を吸収したアップデート版を適用することで永続的なシステムの可用性を担保します」(川西氏)。
また、nexacro beyondでは「異なるUIであっても、変わらないUXを提供できる」ことも特徴の1つだ。「異なるフレーム構造を持つアプリケーション情報と、解像度に応じた複数のレイアウトを持つスクリーン情報を定義できます。リサイズや画面分割機能などを活用することで、利用デバイスごとに最適な操作性を持つアプリケーションを提供できます」(田氏)。

【図2】nexacro beyondのシステム構成図
他社製品の中には、Web用とスマートデバイス用など別製品を購入しなければならずコストがかかるものもある。また、OSSツールも選択肢の1つとして考えられるが、万が一、バグや脆弱性を発見した場合、自身で対応する必要があるなど技術的な知見がある程度求められるため、トータルで考えると運用コストが割高になることもあるので注意が必要だ。
川西氏は「nexacro beyondは専用の言語を使うことがないため、開発人員のコストを抑えることも可能で、開発時のオーバーヘッドを抑制する効果も期待できます」と導入メリットを語る。
スマートファクトリー化を目指す東レ尖端素材の挑戦
nexacro beyondは前バージョンを含めると、全世界で1万2000社以上の導入実績がある。日本では金融機関や製造業を中心に採用されているが、さらに幅広い業種での活用が可能である。
例えば、先端素材を扱う東レグループの韓国子会社である東レ尖端素材では、スマートファクトリーの実現のためにレガシーシステム刷新を決意。メーカー側での公式サポートが切れたミドルウェアで稼働する塩漬けで延命された生産管理システムを長く運用していたが、貧弱な画面UIや使い勝手の悪さ、デスクトップPCのみでしか利用できないといった課題を抱えていた。
同社では、業務システムの性能と利便性や生産性を向上させることを目的として、生産システムの標準フレームワーク開発プロジェクトを実施。その標準プラットフォームとして、8つの製品を比較検討し、ソース管理機能や開発生産性の観点を考慮してnexacro beyondを選定した。
同プロジェクトでは、約200画面を対象にした全社の標準フレームワーク開発とMES共通モジュール化を進めた。その結果、「業務特性を考慮したシステム運用ができるようになり、ユーザーの利便性が向上しました。また、開発ツールの一元化、開発工数の削減など複数の業務にまたがる総合的なコスト削減効果を確認できています」(田氏)という。
さらに、従来は手作業だった工場内の設備の保全業務にモバイルデバイスを活用するシステムを開発し、リアルタイムのプロセスタスク管理を可能とした。同社では、現場のユーザーから声が多く上がるようになり、その意見を積極的に反映して業務で必要となるモバイル機能を迅速に追加することができるようになった。今後開発予定の新規システムや基幹システムへの適用も視野に入れているという。
川西氏は「UI/UXの改善によって業務効率を改善している事例は多くあります。単にユーザーの利便性が向上するだけでなく、従業員の満足度やエンゲージメントを向上させることにも役立っています」と説明する。
レガシーシステムの刷新を後押しする強力なパートナー
このようにnexacro beyondでは、最適なUI/UXを提供することで業務生産性を高めるとともに、アプリケーション開発の保守・運用時のコストを大きく削減することが可能だ。音声インターフェースへの対応に加えて、ジャスチャーなど人の自然な行動であるNUI(Natural User Interface)にも対応することも視野に入れている。
日本ネクサウェブでは現在、「ビジネス・ユーザー・エクスペリエンス(BUX)」というコンセプトを掲げ、企業システムのUI/UX向上に向けた取り組みを進めている。韓国などのグローバルでの開発ノウハウや導入企業へのヒアリングなどをベースとした独自の開発方法論を体系化・整理し、ユーザー向けに提供することを目指している。
さらに同社では開発ツールの販売や導入支援に加えて、導入企業のシステム開発を支援する新たなコンサルティングサービス事業も展開する予定だ。DXでは欠かせないレガシーシステムの刷新、特に業務システムのマルチプラットフォーム化は今後さらに機運が高まっていくだろう。日本ネクサウェブは、その後押しをしてくれる強力なパートナーの1社として期待できる。
