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日本郵船が進める船舶のデジタル化--iPadとFileMakerで特殊な環境に対応

常時750隻以上の大型船舶を運航させている日本郵船は、エンジンやボイラーなどの安全性を高めるために、それらのデータを管理する仕組みをデジタル化しているが、海上という特殊な通信環境に対応する必要があった。

1週間オフラインだとアプリが使えなくなる?

 そして2015年に、技術開発研究を事業とするグループ会社のMTI(千代田区)、IT子会社のNYK Business Systems(中央区)の協力のもと、iPad上に独自のアプリを開発させた。ところが、同社が所有する船舶に導入を進めていくさなかで問題が発生する。2016年8月に、iOSのバージョン9.3におけるセキュリティアップデートにおいて、App Storeから入手したアプリ以外は、1週間オフラインのままだと使えなくなるという改修があったのである。

 船内でのiPadは陸上の通信とはつながっていない状態で使っているのに、1週間に1回以上ネットワークにつなげないといけないという条件ではアプリが使えなくなってしまう。そこでさまざまなシステムを検討したところ、唯一問題を解決できそうだったのが「FileMaker(現Claris FileMaker)」だった。

 FileMakerはAppleの認証製品で、同製品をベースにアプリを開発すれば、海上のオフラインで環境下でもシステムを使い続けられる。そこで、既存のアプリをベースにFileMakerを活用して新たにアプリを作り直すこととなった。

既存のアプリをFileMakerに移植

イボルブ 代表社員の八木氏
イボルブ 代表社員の八木氏

 MTIの協力会社としてアプリの開発を担当したイボルブ(大阪市北区)の代表社員を務める八木省一郎氏は、「従来のアプリと同じ動作ができるようにしつつ、FileMakerであればできるという部分を足して開発した」と当時の様子を語る。2016年の秋に開発を開始し、ユーザーインターフェース(UI)側の開発者と2人の体制で約3カ月後の2017年の1月からテスト船で稼働を開始。海上、船内という特有の要件でのシステム開発を短期間で乗り切った。

 FileMakerを使った開発の優位性について八木氏は、「我々は船の中の業務はわからない。そのような条件でも、FileMakerはアプリを開発でき、UI面でも色や枠をその場で変えることができる柔軟性があるため、紙芝居でモックアップを作り、コミュニケーションを取りながら開発して短期でリリースできた」と語る。

多国籍な船員でも使いやすいユニバーサルデザイン

 その後、船内で活用した際の反応や要望を踏まえて、同年冬にバージョン2を開発した。大きな問題点としては、まず船内のエンジンルームは温度が高いので、動作が遅くなってしまったこと。そしてもうひとつはUIである。船は世界中をまわり、船員も多国籍なメンバーで構成されるため、誰でも直感的に使用できるユニバーサルデザインが要求された。多くの船舶にシステムを展開するにつれて多くの声が集まり、それらに対応してシステムを改良し、使い勝手を向上させた。

アプリ画面イメージ アプリ画面イメージ
※クリックすると拡大画像が見られます

 FileMaker上に開発したシステムでは、M0チェックに加えてさまざまなデータ管理も実施し、電子チェックリスト「electric Unmanned Machinery System(eUMS)」という形に進化している。そして現在、タブレット端末やOSの進化に併せてパフォーマンスと操作性を高めたバージョン3を開発中であり、2021年7月までに完成する予定であるという。さらに今後は、計器の数値をチェックする際に数日で見たときの数値の変化がわかるようにシステムでモニターし、警告する仕組みも実装する予定としている。

集めたデータをAIで分析して安全な航行の実現へ

日本郵船 海務グループ ビッグデータ活用チーム 原田氏
日本郵船 海務グループ ビッグデータ活用チーム 原田氏

 日本郵船では、SIMSとeUMSの開発を並行して進めており、「それぞれの使い勝手を高めていきつつ、最終的には双方で取得したデータや熟練エンジニアの知見をもとに、人工知能(AI)も活用して異常を検知し、運行中に現場や関係者に知らせる仕組みを構築する」と、海務グループ ビッグデータ活用チーム チーム員の原田智明氏は今後の計画を明かす。

 ただそのためには、eUMSで利用している船内時間とSIMSで使われている標準時間との整合性を合わせる必要もあり、同社が目指すデータ活用の仕組みを実現するためにはまだハードルがある。

日本郵船 海務グループ ビッグデータ活用チーム 新宅氏
日本郵船 海務グループ ビッグデータ活用チーム 新宅氏

 現在は、「SIMSは200隻以上の船舶に搭載されており、eUMSは約110隻、iPadはその1隻あたり4~5台搭載している」(海務グループ ビッグデータ活用チーム チーム員の新宅健人氏)という状況で、他の船舶へのシステム導入も課題となっている。

 「船舶ごとに備わる機械も異なるためデータをチェックするポイントも異なり、システムもほぼオーダーメイドとなる」(同氏)。このように簡単にアプリを横展開できない難しさもあるなかで、Claris FileMaker上での開発が、導入作業の効率化を支える一助となる。

 実はビッグデータ活用チームのメンバーは、実際に船に乗る乗組員でもある。海に出れば山田氏は機関長、原田氏と新宅氏は機関士という立場であり、開発メンバーは現場での経験も積んでいる。「自分たちが船に載ったら自分たちで使うものなので、手を抜いたら自分たちに返ってきてしまう。魂を込めて作っています」(山田氏)という背景のもとで、日本郵船の船舶のデジタル化に向けた航海が進んでいる。

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