クレジットカードサイズのシングルボードコンピュータの共同開発者が、画期的なマシンの開発で乗り越えてきた数々の困難を語った。ここでは、その内容を全4回にわたって紹介する。今回は第1回目。
「精神を統一するには、翌朝絞首刑に処されるかもと考えるのが一番だ」
Eben Upton氏は、共同開発した35ドルのコンピュータ「Raspberry Pi」の試作品を2011年5月にオンラインで公開した後、自身の肩にのしかかった世間の期待の重さについて、こう語った。
Raspberry Piは、さほど注目されることなく5年間にわたり設計の改良が続けられていたが、同プロジェクトを知る人の数が突如として爆発的に増加し、初期のRaspberry PiのYouTube動画はわずか2日間で60万回閲覧された。
Upton氏は当初、BBCのテクノロジ記者Rory Cellan-Jones氏の記事に関心が集まったことを喜び、それを妻のLizさんに話したところ、彼女は興奮する夫を落ち着かせるため、厳しい現実を伝えた。
「妻には『本当にやらなければならなくなったのよ。分かっているわね』と言われた」
「大変な瞬間だった。やるつもりだと皆に実際に言ってしまったのだから、やらないわけにはいかない。それを実感した。Roryがいなければ、今もぶらぶら時を過ごしていたかもしれない」
Raspberry Piは現在、驚異的な現象となっており、汎用コンピュータとして世界で3番目に売れている。コンピュータに興味がある人なら、この英国製の小さなボードが家のどこかに1台はあるはずだ。Raspberry PiはノートPC、タブレット、ロボットへの内蔵といった用途のほか、国際宇宙ステーションでの実験に使用されており、コンピュータに関する学習のキットの巨大なエコシステムを生み出した。メインストリームのメディアでも取り上げられ、「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」などのテレビ番組や「ベイマックス」などの映画にも登場した。ビジネスにおけるRaspberry Piの役割については言うまでもなく、シンクライアントから産業用制御システムまで、あらゆるものに役立っている。
だが、決して成功が保証されていたわけではなかった。Raspberry Piの始まりはちょっとした空想的な試みで、テクノロジにどっぷり漬かっているが仕組みには無頓着な世代に、もう一度コンピューティングに興味を持ってもらおうというものだった。Upton氏にきっかけが訪れたのは2006年。当時、英国のケンブリッジ大学で研究ディレクターを務めていた同氏は、コンピュータサイエンスコースへの出願者数が少ないことにショックを受けた。
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