開発 情報処理推進機構

第1回:類似点が驚くほど多い「家づくり」と「要件定義」

「家づくり」と「要件定義」、一見全く関係なさそうに思えるが、実は多くの類似点がある。「家を建てる際の最初のプロセス」を例に、「要件定義」とは何かを解説しつつ、要件定義決定のプロセスを紹介していく。

要件定義編:24時間365日のサービスは絶対? 要件定義に「スピード感」はアリ?

 日常生活の家づくりでも検討要素が多くて悩むのですから、ビジネスの要件定義ではさらに多角的な視点が必要になります。「要件定義」はシステム開発サイクルの初期段階、いわゆる「上流工程」に位置付けられます。はじめは、そのビジネスに携わる関係部署の「~したい」という漠然とした要望や要求を聞くことです。

 さて、千石君のミッションは、事業部時代に企画提案した「販売エリア拡大」と「コラボ商品拡充」を、通販のサイト構築に盛り込みつつ、サイトの「要件定義」をすることです。千石君の会社では、既製品は大手ショッピングモールで販売していたものの、自社サイトからの直販はしていませんでした。今回の業務拡大では直販比率の向上を目指し、自社サイトでの既製品の販売と「オーダーメイド製品の受注」を開始する計画です。

 実は千石君、業務ノウハウという“武器”があれば、通販サイトの要件定義は楽勝だと高をくくっていました。しかし、わずか半月で壁にぶつかってしまいました。

千石君:ウチの調理器具のウリは“メイドインジャパン”の高品質です。長く使っていただくために保証を充実させていますから、一定の固定客は獲得しています。反面、新規顧客の開拓には消極的でしたよね。ネット上で商品を検索してくれた顧客をショッピングモールに誘導するなんてもったいないですよ。自社サイトで販売した方が利幅は大きいんですから。

巣鴨課長:地道に信頼を確保しながら事業を継続してきたんだ。過去を否定してはいけないよ。で、千石君は通販のサイトで、「販売エリア拡大」と「コラボ商品の拡充」を達成したいんだよね。そのためにはどんな要件が必要なのか考えたかな?

千石君:もちろんです。まず、これまで国内のみだった販売ターゲットを外国にも拡大します。ですから、「サイトの多言語化」は必須です。もちろん「サイト上で即日決済」させましょう。今の顧客はAmazonの「ワンクリック決済&即日配送」に慣れていますからね。あ、あと「24時間365日のサービス」も要件に入れなければいけません。

巣鴨課長:ずいぶん厳しい要件だね。

千石君:次に「コラボ商品の拡充」では、伝統工芸や匠の技とコラボします。具体的には「南部鉄器とのコラボ商品」です。使えば使うほど風合いが増す南部鉄器は、ウチの製品コンセプトと一致します。サイトには職人さんの「ブログコーナー」を設けます。また、南部鉄器に関する「コンテンツもキュレーション」して、自社サイトへの顧客流入を増やしましょう。

巣鴨課長:コンテンツを充実させて“会社のプレゼンスを高める”ってやつだね。

千石君:もう一つ言わせてください。ウチの会社に足りないのは「スピード感」です。事業部門にいた時から感じていたのですが、新企画のアイデアは、いつも他社に先行されていました。だから自社サイトで販売する既製品も、販売できるものから段階的に提供していきましょう。

巣鴨課長:アイデアはたくさんあるようだね。素晴らしいことだよ。ただ、今、千石君が挙げた要件を全て実現するためには何が必要なのか、どうしてその要件が必要なのかをきちんと考えてみる必要があるな。まず「24時間365日のサービス」だ。どうしてこれが必要だと思う?

千石君:だって、インターネットは世界中で見られるんですよ。「営業時間は9~18時です」なんてネット通販は聞いたことがありません。そして、即時に決済してもらうには、事前に納期を回答するのは当たり前じゃないですか。

巣鴨課長:なるほど(笑)。千石君が考える「24時間365日のサービス」は、「いつでも注文を受け付ける」だけではなく、「納期を即時回答すること」が重要なんだね。でも、よく考えてみよう。例えば、オーダーメイド商品の注文を受けたとするね。そうしたら、その商品を製造するパーツの在庫があるかの確認が必要だ。次いで製造には何日掛かって、納期は何日後になるのかを瞬時に判断して通知しなければいけないんだよ。

千石君:それは分かります。

巣鴨課長:そのためには、ウチの会社のバックエンドシステムを、取引先(外部)のシステムと連携する必要がある。即時決済は多くの決済業者が対応していると思うけど、納期の即時回答には、取引先のシステム対応が求められるからね。長い付き合いの取引先ばかりだが、先方さんが簡単にシステム連携対応をしてくれるとは考えない方がいいな。当然、先方さんにもコストが発生するからね。

 あとね、自社のバックエンド側だけど、注文受付と即時決済、そして納期の即時回答をするためには、販売管理システムと生産管理システムの改修が必須だよ。いずれも、ウチの基幹システムだから、改修には莫大なコストが発生する。もちろん、改修には時間が掛かるから、その間のことも考えないといけない。

 1つ、“ウルトラC”として「システム連携をせずに、納期を決めて通知する」こともできけど、その場合は余裕を持った期日設定になる。既製品は大手ショッピングモールでも販売しているから、「直販サイトは納期が遅い」ってことになりかねないよ。

千石君:あ……。

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