韓国の存在感高まるなど--各国がベトナム投資の動き

各国からベトナムへの投資は引き続き順調であるものの、日本からの投資は以前ほど活発ではないように感じます。2015年12月31日付で発足したASEAN経済共同体(AEC)が動き始めて半年余りが経過したこともあり、今回は、各国からの投資の状況について概観してみます。

一方で、ベトナムはASEANの草刈り場?

完成予想模型
外国から投資も呼び込みつつ400ヘクタールの開発を行おうとする新都市開発プロジェクトの完成予想模型(一部)。小学校や中学校といった文教施設のみならず、ショッピングセンターやゴルフ場といった施設までを完備する予定。ベトナムの生活水準からすると一つの理想郷を作り上げるということかもしれない

 大型投資案件としては、「ドンナイ省における、AMATA(タイ資本)による都市建設プロジェクト」「ハノイにおける、サムソンによる電気電子分野のハイテク研究センター建設プロジェクト」「チャービン省における韓国資本による風力発電所建設プロジェクト」などがあげられます。他の案件を見ても、やはり基本は「インフラ系」や「箱モノ」と呼ばれる分野です。

 ホーチミン市やハノイといったベトナムを代表する大都市ではそれなりに都市整備がなされつつあります(ただ、それでも都市の再開発が必要な状況です)が、複数の省にまたがるような地方単位で整備が必要なものや、国家として整備が必要なものについては、依然として投資が望まれている状況です。タイやシンガポール資本が不動産開発プロジェクトに投資を行っている状況は、ベトナム現地の状況と合致していると言えるでしょう。

 別の資料として、ベトナム政府が公表している輸出入統計も確認してみました。しかし、現時点においては、AEC発足に伴うベトナムでの輸入量総量の増加といった大きな変化までは確認できませんでした。関税が下がることで対顧客価格も下落し、購買に結び付く可能性があると考えていましたが、一部でその動きはあるものの、全体の動きにまでは至っていない印象です。

 FDIについても、対前年比での伸び率に大きな変化が見られず、これまで通りの投資傾向のようです。ただ、ベトナムでは来年度もGDPの伸び率以上の法定最低賃金の値上げが予定されており、製造業者の投資も湿りがちになると考えられ、工業団地の開発を進めることが投資メリットがあるかは不透明です。そのため、不動産投資も、新都市開発やリゾート開発といった分野にシフトしていくことも考えられます。

 計画投資省のホームページでは、1年ほど前にベトナム人学識経験者が執筆した経済分析レポートを掲載しています。その中には、ASEAN域内での貿易自由化がなされた場合、今のベトナムの生産性では農業分野においても工業分野においても付加価値が高い製品を作ることは非常に難しいという警鐘を鳴らすものもあります。

 実際に、今年に入ってベトナムがASEAN諸国から輸入する自動車完成品の輸入税率が10%引き下げられたことに伴い、自動車完成品の輸入台数が増加しているとの報道がありました。まだ小さな変化なのかもしれませんが、これまで関税によって守られてきたベトナム国内産業が、先の警鐘のとおり打撃を受ける可能性もあります。

 その点でベトナムは、「ASEAN諸国から投資をして箱モノを作っても良し」「ASEAN諸国から製品を輸出しても良し」といったように、資金回収の場としての「草刈り場」となってしまい、結果として国内産業を育成できず貴重な関税収入も失うという最悪のシナリオになる可能性も否定できません。


開発現場の一例。地元政府が推進し、外国の政府系組織とも連携しながら総合的な地域開発を行う場合であっても、こうした原野であることが珍しくない。
そのため、周囲との調和という面で違和感を覚えることもある

 一方で、上記のレポートでは、ASEAN域内での経済自由化がベトナム企業にとって大きなチャンスであることにも言及しています。

 ベトナムはコメの輸出量で世界でも1、2位を争っていますし、他にも生産量が世界のトップクラスで、今すぐに戦略的な輸出産品にできる農産物が少なくありません。「農業の高度化のための投資セミナー」といった次世代に向けたFDIの呼びかけに応える形でベトナムの農業分野自身が成長していくことができれば、確かに大きなチャンスになるでしょう。

 そのため、貿易統計を追うだけではなく、ベトナムへの投資の呼びかけと現地での実際の動きについても、引き続き注意を払う必要があると強く感じています。

画像
古川 浩規
インフォクラスター
内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事

あなたにおすすめの記事

関連記事

ホワイトペーパーランキング

  1. 多機能、シンプル管理、サポート面--管理者の「欲しい」を全部入りにしたストレージとは
  2. 12社のオールフラッシュアレイを徹底比較! 世界のバイヤーが参考にする「AFA製品評価ガイド」公開
  3. 【消費税改正実態調査】全業種に影響する企業の消費税改正対応が、わずか2割しか対応が進んでいない現状
  4. 既存のセキュリティ対策は“穴だらけ”─企業の命運は次世代型の防御アプローチにかかっている
  5. IoT、AI、自動化で事業を組み上げよ--製造業のITのための最新テクノロジー完全ガイド

編集部おすすめ

トレンドまるわかり![PR]

サーバ
IAサーバ
UNIXサーバ
コンバージド・ハイパーコンバージド
その他サーバ
PC・モバイル
PC
スマートフォン
タブレット
ウェアラブル
周辺機器
ストレージ
NAS
SAN
フラッシュストレージ
ネットワーク
スイッチ
無線LAN
ルータ
ロードバランサ
VPN
WAN高速化
仮想化
サーバ仮想化
コンテナ
SDS/ストレージ仮想化
SDN/ネットワーク仮想化
デスクトップ仮想化
アプリケーション仮想化
クラウドサービス
クラウドストレージ
IaaS
PaaS
プライベートクラウド
OS・ミドルウェア
OS
ミドルウェア
アプリケーションサーバ
開発
開発ツール
開発支援
ノンプログラミング開発ツール
データベース
RDBMS
NoSQL
その他データベース
DWH
ETL
EAI/ESB
運用
運用管理
資産管理
MDM
バックアップ
ディザスタリカバリ
セキュリティ
クライアントセキュリティ
サーバセキュリティ
ゲートウェイセキュリティ
メールセキュリティ
ウイルス対策
標的型攻撃対策
IDS/IPS
ファイアウォール
WAF
UTM
SIEM
フィルタリング
データ保護
アクセス管理
SSO
ワンタイムパスワード
IRM
情報漏えい対策
暗号化
脆弱性診断
その他セキュリティ
新興技術
IoT
ドローン
ロボット
VR・AR
AI・機械学習
財務・経理
ERP
会計ソフト
経費精算・旅費精算
帳票管理
人事・労務
人事評価
人材管理
人材採用
給与計算
給与明細配信
勤怠管理・労務管理
マイナンバー
マーケ・営業
CRM
SFA
営業ツール
名刺管理
マーケティング
マーケティングオートメーション
販売管理
見積管理
店舗管理
POS
決済システム
ECサイト
購買・調達
購買管理
SCM
生産・製造
PLM/PDM
生産管理
データ分析
統計解析
テキストマイニング
ソーシャルメディア分析
BI
コミュニケーション
グループウェア
プロジェクト管理
ワークフロー
BPM
メール
SNS
ウェブ会議
安否確認
ファイル共有
チャット
通信・通話
PBX
電話・FAX
コールセンター・コンタクトセンター
文書・コンテンツ
文書管理
電子署名
サイト構築
CMS
PCソフト
オフィスソフト
OCR
RPA
学習
eラーニング

ベンダー座談会

Follow TechRepublic Japan

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]