オープンソースのオフィススイート「LibreOffice」は数あるオープンソースプロジェクトの中でも一般ユーザーの認知度が高いソフトウェアだ。長い歴史を持つが、独立した非営利団体「The Document Foundation」の下で、LibreOfficeという名称になってからは5年弱。その人気の秘密はどこにあるのか――。
ドイツでThe Document Foundationの執行ディレクター、Florian Effenberger氏、インフラ管理担当Alexander Werner氏の両氏に話を聞いた。
LibreOfficeは2010年秋に、「OpenOffice.org」のフォークとして生まれたプロジェクトだ。その歴史は古く、1985年にさかのぼる。その年、ドイツでうまれた「StarOffice」というオフィススイートが原型で、これを開発する独StarDivisionを米Sun Microsystemsが1999年に買収、OpenOffice.orgとして公開した。
そのSunが米Oracleに買収されたのは2010年、そしてその年の秋にOpenOffice.orgのフォークとしてLibreOfficeプロジェクトが発表され、取り組みの土台となる独立した非営利団体The Document Foundationが立ち上がった。
そのタイミングからも、プロジェクトがOracleの下に入ることが不満だったと思いたくなるが、”独立した非営利団体を”というアイデアは随分前からあったという。「(Oracle買収とは)直接関係はない。(Sun買収後の)2000年にOpenOfficeとしてスタートしたときからゆくゆくは独立した非営利団体をという願いがあった」とEffenberger氏。
「もちろん、Oracleの買収は契機となったが」と付け加えた。Oracleに対しては、The Document Foundationの結成時に参加を呼びかけたが、合意に至らなかったとのことだ。
一方のOracleはその後、残ったOpenOffice.orgのコードをオープンソースの非営利団体Apache Software Foundation(ASF)に寄贈、「Apache OpenOffice.org」として再スタートを切った。だが両オープンソースソフトウェアの分岐から5年、LibreOfficeとフォーク元のOpenOffice.orgとはだいぶ違うものになっているという。
たとえばライセンス、Apache OpenOffice.orgはApache License 2を、LibreOffice.orgはGPLとLGPLを採用している。「共通の歴史を持つが、ガバナンス体系も開発も異なる。LibreOfficeは業界をリードするオープンソースの生産性スイートといってよいだろう」とEffenberger氏は胸を張った。
LibreOfficeによると、アップデートメカニズムを利用して安定版のアップデートを求めるユニークIP数は、累計1億2000万に達しているとのことだ(このうち、LirbeOfficeをメインに使っているのは3分の2程度と予想している)。
個人ユーザーだけではない。2004年WindowsからLinuxへの移行を発表し、公共機関のWindows/Office離れの口火を切ったドイツ・ミュンヘンを筆頭に、フランスでは政府、パリを含むイル=ド=フランスの学校、デンマークのコペンハーゲン市立病院、シカゴ図書館などを導入事例にもつ。日本でも会津若松市役所などの地方自治体で採用されている。Ubuntu、Red Hatなどのディストリビューションにも同梱されている。
The Document Foundation(TDF)はサポートやアドバイス役としてアドバイザリーボードを設けており、Google、Red Hat、SUSE、ミュンヘン市など17の企業と組織が名を連ねる。ドイツ・ベルリンに登記上の住所を持つが、メンバーは世界に散らばっている。
ミュンヘンを拠点とするEffenberger氏とWerner氏のほか、ドイツにはもう1人リリースエンジニアがおり、イタリアのPRとマーケティング担当、フランスの管理事務担当、米国のQAと品質管理担当、と合計6人がTDFと契約するスタッフだ。実際の開発は、世界から約300人のボランティア開発者がメーリングリストやIRCを使って日々行っている。
StarOffice、OpenOffice.org時代からの貢献者もいるが、TDF設立により、新しいメンバーが多数加わったという。コミュニティーの活発さはたとえば言語に現れている。現在、LibreOfficeは100以上の言語に対応している。「規模が小さいためにほとんどのソフトウェアがローカライズされていないというマーケットにも、ボランティアがいればアプローチできる。これはコミュニティーのパワーだ」とEffenberger氏。
同時に奨励しているのが、コミュニティー間でも自分たちの言語を使うことだ。「メインは英語だが、コミュニティーが自分たちの言葉でやりとりできることは重要だ。エンゲージが強くなる」とEffenberger氏はその理由を説明する。日本でも開発者が日本語でやりとりをしており、国内でイベントを催すなどの活動がある。
実際のソフトウェアをみてみよう。現在のリリースは、6ヶ月に一度メジャーリリースを公開するという時間ベースのサイクルを持つ。メンテナンスは通常、2つのブランチを平行して行い、年に数回、小規模なバグ修正リリースを行う。この狙いについては、「事前の予測が立てやすく、エンドユーザーと開発者の両方にメリットがある」と説明する。